2016.7.14
エンタメの次の流行はウェブから 「小説投稿サイト」の現在と未来
2016.7.14

エンタメの次の流行はウェブから 「小説投稿サイト」の現在と未来

ITライフch編集部
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斎藤工、広瀬アリスなどの人気俳優が多数出演し、公開中のオムニバス恋愛映画「全員、片想い」。劇中の恋愛エピソードは、小説投稿サイト「エブリスタ」に投稿されたウェブ小説が基になっています。

プロの作家や脚本家ではない、一般のユーザーがウェブ上で執筆・発表した小説が人気になり書籍や映像化されるビジネスモデルは、世界的にも盛り上がっています。一般ユーザーが“作家”として活躍する場を得ることができる小説投稿サイト「小説家になろう」「カクヨム」「エブリスタ」をそれぞれ運営するヒナプロジェクト、KADOKAWA、エブリスタの3事業者の発言から、現状や動向、出版業界やエンターテインメントの未来について探りました。


■日本の小説史上でもっとも読まれているメディア


「奴隷区/僕と23人の奴隷」「Re:ゼロから始める異世界生活」「この素晴らしい世界に祝福を!」「GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」・・・・・・。これらの映画やテレビアニメは、小説投稿サイトに無料で発表された作品が人気を博し、書籍化というメディアミックスを経て誕生しました。ほかにも数多くの作品が書籍化され、双葉者から出版された「君の膵臓をたべたい」の発売部数は55万部、2015年デビューした作家では芥川賞を受賞した首位の「火花」に次いで売れたとのこと。

「ウェブ小説とは、紙の書籍や雑誌の電子版ではなく、基本無料の小説プラットフォーム上の作品のことです」と解説するのは、ライトノベルに詳しい編集者で「ウェブ小説の衝撃 ネット発ヒトコンテンツのしくみ」(筑摩書房)の著者である飯田一史氏。「小説家になろう」「エブリスタ」はそのプラットフォームを提供、「カクヨム」は書籍化時の版元も兼任しています。

プラットフォームごとにユーザー層が異なるため、投稿される小説のジャンルは多岐にわたります。「居酒屋ぼったくり」「オーバーロード」は40代から熱い支持を受けるほか、北米のサービス発の「Fifty Shades of Grey」「火星の人(オデッセイ)」がハリウッドで映画化されるなど、日本の若者に限った一時の流行ではないそう。

出版業界が1996年をピークに縮小し続け特に雑誌は苦戦を強いられるなか、無料で読めるウェブ小説が有料の書籍になっても売れる理由について飯田氏は「小説投稿サイトは作家の発掘、育成とプロモーションを代替しているから」と説明。権威ある作家がジャッジする小説雑誌の新人賞では受賞作が必ずしも読者に好まれるとは限りませんが、サイトでは多数の素人である読者からの支持がランキングなどでポイント化され、その後押しによって書籍化。小説雑誌は最盛期の1960~70年代には100万~150万部発行されていましたが「月間で小説投稿サイトを訪れるユーザー数ははるかに上回っており、日本の小説史上で最も読まれているメディアといえるのでは」(飯田氏)。雑誌の発行部数や書店数の減少による、読者の書籍への接触機会の減少を補う効果もあると話しています。


■次の流行はウェブから誕生する


小説投稿サイトが人気のあるいちばんの理由は無料なことではなく、SNSとコミュニケーション機能。作品を読んだ読者の反応をダイレクトに得られることの張り合いや喜びは書き手にとって大きなもので、芥川賞受賞作家の平野啓一郎氏も、毎日新聞とnoteで掲載し書籍化した長編小説「マチネの終わりに」執筆にあたり、noteに書きこまれた読者の感想コメントが新鮮でやる気につながったと明かしています。

また、雑誌の新人賞ではじかれてしまうタイプの作品でも人気が集まれば書籍化ができることや、書籍化に必要な条件が数字で目安がつくこと、完結していなくても投稿できることなどもユーザーを集める一因とのこと。文化的、経済的波及効果は、映像だけでなくゲームやVR、舞台も期待できるそうで、飯田氏は「今後は、ウェブの動向を見ないと次に流行するコンテンツを探せなくなる」と指摘しています。


■人気作と同ジャンルへ、ヒットの波及効果


映画「全員、片想い」を生み出したエブリスタの特徴は、投稿されるジャンルが広いこと。集英社や白泉社など数多くのレーベルとのタイアップで出版された書籍数はすでに500冊を超えており、サイト内での作品の有料販売も可能です。

2010年ごろに現在までシリーズが続いている「王様ゲーム」が人気になるとホラージャンルでヒット作が続き、13年ごろに「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」が出るとミステリーの作品を増えてきたそう。エブリスタ取締役の芹川太郎氏によると「ひとつヒットが生まれると、同じジャンルで次のヒット作が生まれる動きが広がっている」。
その背景には、出版社と協力して毎月行っている小説大賞の寄与があり、初作品がいきなり新潮文庫から出版されることもあるそう。最近は、コミックの原作へも注力。これまでは小説で人気のものをコミカライズしてきましたが「文章力が低くても面白いアイデアを作れるひとはいるし、その逆もある」(芹川氏)。作画担当と組み合わせるなどして、できるだけ多くのユーザーに発表の機会を提供したいとのこと。

「小説家になろう」は元々企業が立ち上げたサービスではなく、個人サイトとして開始したサービス。これまで口コミのみで運営しており、ヒナプロジェクトの取締役、平井幸氏によると「広告を表示させるようになったのもつい最近」。

作品のランキングは入れ替わりが激しく、人気作を読んだ読者が派生作品を作る動きが顕著。ファンタジーや恋愛ものが人気で、なかでも「悪役令嬢」「婚約破棄」と呼ばれる作品郡は、すでにひとつのジャンルとして定着し「なろう系」とも呼ばれているそう。「他サービスに比べて独自文化が多いけれど、それを求めてくれるユーザーが多い。その空気感を大切に、ユーザー目線での運営を大切にしたい」(平井氏)。

利用のハードルは可能な限り低くし、その分ユーザーを数多く集めることに注力。ビジネスモデルは広告ですべてまかなえているそうで、書籍化に限らず映像化や舞台化など、他社との協力の申し出は積極的に受け、ユーザーの発表の場を確保しているとのこと。

2月にスタートした「カクヨム」は、KADOKAWAの人気小説やゲームなど24タイトルの二次創作の許諾を押し出しています。編集長の萩原猛氏が「才能発掘の場」というように、サービス開始当初からコンテストを実施。大賞を受賞した作品のほかにも20作近い書籍化の要望が同社レーベルから寄せられているとのこと。

「ウェブで生まれたものが他とリンクする瞬間なので、大切にしたい」と、KADOKAWA以外のレーベルでも書籍化にも積極的に取り組む方針。サービス自体も「ひとつのサイトのトップページにだせる情報には限界がある。これだけ多くの小説があるのだから、多様性を広げるためにもっとサイトが増えてほしいと思う」と門戸の広さを訴えています。


■文芸と認められるかは「時間の問題」


書籍化は投稿するユーザーにとって大きな励みや目標になりますが、ランキング上位の作品が必ずしも書籍になるとは限らないとのこと。飯田氏によれば「数字だけみている時代は終わっている」そうで、萩原氏も「小説の中身が大事。カバーのイメージがすぐに思い浮かぶかどうかで判断を徹底している」と書籍化の内情を明かしています。

しかしランキングが重要なことは確かで、書き手にとって張り合いであると同時に、初めて読むユーザーには「読者の需要がある作品の指標」(平井氏)。ジャンルごとにランキングを設けることで、競合を避けて参加者数の少ないジャンルに投稿が増えるなど、多様性の拡大にも繋がるそう。

ウェブ発小説の文化的な立ち位置は、一般的にはまだ「文芸」と認められていない側面も存在していますが、飯田氏は「ゲームやテレビ、SF小説も出始めのころは『バカになる』といわれており、時間の問題では。むしろ文芸誌で取り上げたものだけしか書評しないメディアの姿勢が問題」と指摘。萩原氏は「その時間を短縮させるのが、腕の見せ所だと思っている」、芹川氏は「その認識の払拭や、書き手自身のアマチュアだからという意識を変えていくことも運営サイドの責任」と意気込んでおり、書籍化した書き手へ担当者をつけての指導や、書店でのイベント開催を通してウェブ発のコンテンツだとの周知に取り組んでいます。

ユーザーの大半はスマホからの閲覧を占めるため、“競合”はゲームやSNS。芹川氏は「若年層のスマホの可処分時間を、どう確保するか。隙間時間ではなく小説を読む長い時間をどうライフスタイルの中で取り入れるかが一番難しい問題」と明かしています。

ITライフchでは、「ウェブ発小説、読んだことはありますか」への回答を募集しています。

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